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『白い弧影 ヨコハマメリー』への著作家・本橋信宏さんの書評
『白い弧影 ヨコハマメリー』が発売して、あと10日で2ヶ月である。
本を宣伝するためにランディングページをつくろうと思い、その目玉として数名の方に書評をお願いしようと考えた。

まっさきにお願いしたのは本橋信宏さん。

『東京最後の異界 鶯谷』『迷宮の花街 渋谷円山町』『上野アンダーグラウンド』『鶯谷』という東京の裏街道を掘り下げたシリーズ本や、自身の体験から昭和の一断面をとらえた『エロ本黄金時代』、さらには“AVの帝王"とよばれた男を取り上げた『全裸監督 村西とおる伝』などで知られている。

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本来であれば、頂いた原稿はランディングページで独占掲載するべきである。
しかしなんだか疲れてしまってつくる気力が湧いてこないため、一旦ここで掲載してしまおうと思う。

率直に言って玉稿である。
▼ ▼ ▼
 白塗りは女を変えた。
 街娼のヨコハマメリーが著名人になったのは、あの白塗りと濃いアイメイクにあった。
 あまりにも濃すぎる白塗りは、かえって客が引いてしまうだろうと思うのだが、ヨコハマメリーは白塗りで通した。
 やはり白塗りはメタモルフォーゼとしての儀式なのだろう。

 知り合いの30代独身OLが私に言った。
「下着とお化粧で女は変わるの」
 勝負下着という俗語があるように勝負化粧というのもあるのだろう。

 ヨコハマメリーの白化粧を見て思い出すのは、1997年に発生した東電OL殺人事件の被害者であった。
 日本最大級の企業体、東京電力4万3千人万人のなかの一握り、東電初の女性管理職としてエリート街道を突っ走ってきた慶応経済卒の女性幹部が、仕事が終わると毎夜、渋谷道玄坂にたちんぼうとして客を引いていた。
「殺されたあの東電OLは、道玄坂のラブホテル街、箱ヘル店(店舗型風俗店)では有名でしたよ。顔まっ白に塗って客引きしたり、コンビニでおでん買ってるから、”白塗りさん”って呼んでたんですよ」(箱ヘル・店長)

 女性エリート幹部だった元慶大生は、1997年当時、40歳ですでに年収1千万超えであったにもかかわらず、終電間近になると駐車場の影においてわずか2千円でカラダを売っていた。
 入店禁止になったラブホテルも多かった。彼女を定期的に抱いていた愛人の一人は、彼女との肉交ぶりを淡々と私に語っていた。ラブホテルが入店禁止にした理由も,部屋中凄絶な汚し方をするのが原因だった(活字にするのもはばかれる)。

 いまだに東電エリート女性幹部が夜ごと、道玄坂に立っていた理由は定かではないが、ひとつだけ言えることは、たちんぼうに変身するとき、顔を白く塗りたくるのは避けて通れない儀式だった、ということだ。

  *

 白塗りの街娼は私が知る限りであと2人いる。ひとりは新宿のとある街角広場にふわふわと徘徊する小柄の街娼である。
 推定年齢70代後半、身長140センチ前後、ミニスカを履き、ウエーブのきつい巻き髪。林家パー子に似ている。
 激安ソープや箱型ヘルス、ピンサロといった大衆店が掃いて捨てるほどあるのに、広場で仕事をしている彼女は、おそらく密かな人気があるのだろう。

 もう一人は山手線北東部のある駅前ラブホテル街で深夜、姿を見せる70代女性である。昔は自身で街娼をやっていて、現在は斡旋役、客の要望によっては街娼に変身する。
 蛭子能収を白塗りにした風貌ながら、シャツからのぞく白い谷間はやけに色香が漂う。

 阿部定・東電OL・ヨコハマメリー。

 男たちはいにしえから、性を売る奔放な女に言いしれぬ興味を抱いてきた。
 そして構築されたのが、ヨコハマメリーが白塗りにしているのは、去ってしまった愛人のアメリカ人将校がもどってきたときにわかるようにと目立つ化粧とフリフリの派手な服をまとっているという伝説である。
 その容貌とあいまってヨコハマメリー伝説は街娼の枠を飛び出して伝説となった。

 彼女を追って様々なレポートが敢行された。
 本書の著者・檀原照和もその一人である。

−−ノンフィクションは嘘をつく。
 という怜悧な見方を著者は持ち、いままでのヨコハマメリー像をひとつずつ検証して、真贋を見極めていく。
 檀原照和が描くディティールによって、いままでボケていたヨコハマメリー像にピントがあった。

 午後の紅茶ミルクティが好物。
 激しい外反母趾。
 手が冷たい。
 寄港先は、焼き鳥屋「鳥浜」、GMビル、国際ビル、森永ラブ。
 ストレートティが好きで白粉が落ちていつの間にかミルクティ色になってしまう。
 別名−−クレオパトラ・皇后陛下・バラ色の貴婦人・きんきらさん。
家具売り場・ピアノ売り場といった品のいい店が好き。
 好みの客の条件は、日焼け・眼鏡・ネクタイ。

 もともとノンフィクション作家になるつもりはなかったという著者だが、対象にせまる迫力と粘着力はすでに大物の風格を示している。
 ヨコハマメリーの正体をレポートした週刊誌の特集記事を見逃す、という大ポカもやらかすが。もっともそんな失態もかえって物語を進める上でドラマティックな効果をあげている。
 著者のヨコハマメリーへの接近は、ネットのサイトからはじまり、SNSを駆使している。あらためてノンフィクション作品におけるSNSの存在が大きくなったのだと実感する。
 ヨコハマメリーというすでに地上から消えてしまった人物を探るルポルタージュは、対象の消失というハンディを背負いながら、周辺の証言から主人公の人物像を浮きあがらせることに成功している。

 映画史のなかでも最高傑作と言われる「市民ケーン」(オーソン・ウエルズ監督・1941年)がある。
「バラのつぼみ」という謎の言葉を残して死んだ新聞王ケーンの人生に迫る物語で、映画はケーン周辺のレポートで人物像を浮かび上がらせようとする。
 謎の言葉「バラのつぼみ」とはいったい何だったのか。
 ラストシーンで、ケーンの遺品を燃やしていると、ケーンが幼いころ遊んだあるものに秘密が・・・・。衝撃と感動のラストシーン。
 複眼的なアプローチで死亡した街娼の正体を追い求める著者。
 本書は「市民ケーン」を彷彿とさせる書き下ろし本に違いない。
▲ ▲ ▲
本橋さんは『迷宮の花街 渋谷円山町』のなかで「東電OL」を扱っている。
それが反映されているのだろう。

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メリーさんを「東電OL」と接続したり、「市民ケーン」と拙著を引き比べるなど、意外性のある飛躍が心地よい。

本橋さん、ありがとうございました!

*元原稿には改行による段落分けはありません。読みやすくするために手を加えています
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