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『白い弧影 ヨコハマメリー』より まえがき(4)
前述の通り、実際に出版されるバージョンとは、細部に違いがある。
著作権は放棄しない。

* * *
●メリーさんをふたつに切り分けて考える

 メリーさんについて長く取材を重ねるにつれて、私は彼女の実人生と伝説を切り離して考えるべきだと思うようになった。事実に基づいた単眼的な世界観から抜け出さなければ、彼女の物語空間全体は理解出来ない。
 メリーさんには多くの謎があるが、大きく分けると以下の2つに集約されるだろう。

 1.実人生の謎(本名、出身地、生い立ち、娼婦になったきっかけ)……ドキュメント(史実・記録)
  →ある程度の輪郭は判明している
 2.あの姿で立っている理由……すべての噂や伝説の根源。周囲が想像を膨らませ伝播させた。
  →メリーさんが亡くなったため、永遠の謎

 このふたつの分類を見たとき、なにかに似ていると感じた。それはキリスト教の聖書研究分野でひろく受け入れられている考え方で
 
 ・歴史上のイエス(イエスの実人生、人間としてのイエス、史的イエス)……考古学の対象
 ・信仰上のイエス(神の子としてのイエス)……神学の対象

のふたつを完全に分けて研究する、という姿勢である。
 これをメリーさんの研究に援用し

 ・歴史上のメリー(メリーさんの実人生、史的メリー)……ノンフィクション文学の取材対象
  →メリーさん自身の人生の軌跡。
 ・伝説のなかのメリー(噂話や映画、演劇、音楽などのなかのメリーさん)……社会学の考察対象
  →メリーさん自身はノータッチ。周囲の人々が彼女に託したイメージの集積。

という具合に切り分けて考えることにした。
 本書の第1部と第2部では主に「歴史上のメリー」の探求を、第3部では主に「伝説のなかのメリー」について考察している。

 横浜の人々は彼女に関するさまざまな噂を口にしたが、1980年代までは「史的メリー(メリーさんの実人生)」に関する興味はほとんどなかったのではないか、と思う。あくまで「噂のネタとして恰好の人物」という位置づけだったのではないだろうか。

 彼女のことを書く上でむずかしく感じる点は、「史的メリー」と「伝説のなかのメリー」が渾然一体となっていることである。前述の通り、これから先は彼女の生身の人生と、街の人々がつくりあげた伝説とを出来るだけ切り離して議論していきたい。

 まず私が彼女に興味を持ったきっかけから順を追ってお話しようと思う。それは取材を始めた20年前に遡る。


横濱 | comments(0) | trackbacks(0)
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