詩人・田村隆一「港のマリー」を書く
先日ご紹介した週刊誌の記事を見た現代日本のトップクラスの詩人・田村隆一は「港のマリー」という詩を書いた。前半のかなりの部分で週刊誌の記事をそのまま転用しているため、現在の基準で言えば明らかに著作権侵害作品。それだけ昔は大らかだったのだろう。
田村隆一はメリーさんより二歳年下で同世代だ。昭和四五年から亡くなるまでを鎌倉で過ごしていたため「ひょっとしたらメリーさんと関わりがあったのか?」と考えていた時期もあった。
しかし田村の研究書を記している詩人の笠井嗣夫は、「娼婦『港のマリー』自体は、けっこう有名な存在だったと推定しますし、田村が会った可能性がないとはいえませんが、田村の作品に、実際に会えなければ書けないような表現はなかったように記憶しています。
 横須賀には米兵相手の娼婦はたくさんいましたが、田村の好みとするところではなかったようにも感じられます。ましてや鎌倉転居以後の田村と、米兵相手の娼婦というのは、私の感覚ではしっくりきません」と語っている。

「港のマリー」(文芸誌「海」1982年3月号より 後半部分は省略)

週刊誌のグラビアでみた
「港のマリー」のポートレート
大正十年生れの現役の娼婦だ
車を買うために
ヨーロッパ旅行をするために
スナックを経営するために
ニューボディを商品とする
もとOL
もと女子学生
とはわけがちがう
港のマリーは純粋な娼婦だ
ボンペイやシカゴやパリにはまだいるかも知れないが 日本では
たぶん最後の娼婦
文明の歴史の質がちがうと
こうも娼婦の顔が変ってくるものか
梅毒と結核が抗生物質で駆逐されるようになってから
詩人も軍事的天才も哲学者も
生れなくなったのだから
純粋な娼婦が生きのこれるわけがない
娼婦にもなれない若い女性の生きがいは
銀行の預金通帳だけだ

厚化粧をしたマリーの顔には
無数の皺が刻みつけられている
まるで宇宙衛星から撮影した地球の
氷河のようだ
彼女の氷河期は
日本の敗戦からはじまった
銀座の服部時計店のまえに立ってから
ヨコハマ ヨコスカ
日本のなかのアメリカで生きてきた
客はハーバードやプリンストン出の米軍士官ばかり
過去三十六年間に補導歴二十三回
売春禁止法 シャブ ヒモ犯罪に関係なかったから
逮捕歴はきわめて少ない
と神奈川県警の刑事が云っているが
その刑事だって
マリーが娼婦になりたてのころは幼稚園児だったのさ

日本人と一度
アメリカ人と一度結婚したけど
いまはたった一人
死ぬときも一人だと思うわ
日本のなかのアメリカに二十八年すんだけど
いまはどこにも住んでいないの

「いまはどこにも住んでいないの」
それはマリーだけの話ではない
先進工業国の人間ならみんなそうじゃないか
平和は「未来」の危機の情報源と恐怖の薬物にすぎない
戦争とテロと内戦だけが平和におびえる心を麻痺させてくれるだけだ
人類そのものがボート・ピープルなのだから
やっと陸地にたどりついてみたら
港のマリー
無数の氷河

*以下21行省略*
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